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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
真名古はユラリと一歩前に進み出て、
「この真名古がそんな迂濶なことで軽々に犯人を断ずるようなことがありましょうか。さっき警視庁の中庭で、ピストルを発射して窓から突出されたその者の顔を、花に首実験させてあります」
「花は何といったね」
「あの男に相違ないと申しました。つまり、それはあなただったのです」
「するとその花という娘は、特別な霊活な眼を持っているのだと見えるね。中庭から三階の総監室までは非常に高いのだが、どうして前夜の犯人と僕が同一人物だと指摘することが出来たのだろう」
「崖下の花の窓から有明荘の玄関の窓までの高さと、警視庁の中庭から総監室の窓までは同じ高さです。二つの場合の条件は等しいのです」
「さよう、二つの場合とも同様に、正確に物像を見得まいということだ。有明荘の玄関では、犯人が鶴子を投げ出す時、電燈はバック・ライトになっていた筈だが、花は何の光によって犯人の顔を見たのかね」
「後ろの光と月の光の両方です。その時、月の光が有明荘の窓に当っていました」
「ところが、君が僕の首実験をした時、総監室の窓には月の光は当っていなかった。……それなのに花はあれが犯人だと断定したのだね。