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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
文章で書けば長いが、この間、時間でいえばものの五秒ぐらいの間であったろう。真名古は海鼠塀の隙間からこれだけの事情を咄嗟に見てとると、身を翻して空地の中に躍り込み、
「待て!」
絶叫しながら、野道の茨のように道をふさいでいる赤錆びの鉄条網を跳ね越え跳ね越え、脱兎のように活劇の方と飛んで行く。
しかし、こういう際に、待て、などと声をかけるのはどう考えても可笑しい。いかに叱※(「口+它」、第3水準1-14-88)したって待つわけなどはない。真名古にしても、待てなどと叫ぶつもりはなかったのだろう。要するにやむにやまれぬ憤激が、こんな言葉になって発語されたものと思われる。
果して二人の兇漢は待ってなどいなかった。ひた走りに飛んで来る真名古の姿を見ると、かねてこういう場合の手筈が定めてあったものと見え、互いに素早い合図を交し、東と南の二タ手に分れて、ゴロゴロと錯落する切石を跳ね越えながら、巧みに逃げ延びて行く。地面の上にはそういろいろな障害物があるのに、意外な窪地があったり小山があったりするので、思うように駈けられぬ。真名古は二人から引離されて廿間ほども遅れてしまった。