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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
さすがの局長もアワヤ落城の憂目を見ようとするその時、突如卓上電話のベルがこの争論を貫いてチリンチリンとけたたましく鳴りわたった。
争論はこれでいっぺんにお土砂をかけられたようになる。吉報か凶報か。一同はかたみにオズオズと顔を見合わすばかり思い切って受話器をとりあげる勇気のあるものもない。卓上電話は癇癪を起したようにジリジリと我鳴り立てる。
しかし、こうしていてもキリがないと思ったのであろう。局長は猪首に伝う冷汗をハンカチで拭いながら、オズオズと応待を始めた。一同は四方から詰めよって、穴の明かんばかりに局長の面を見つめる。その上に蕩揺する表情によって、逸早く吉凶を判断しようというのである。
局長は一と言、二た言、声の主に向って焦立たし気な叱声を浴びせかけていたが、やがて受話器を手に持ったまま唐突に椅子の中に落ち込むと、一種漠然たる自失状態の中から、蚊のなくような声で、こんな風にもきれぎれに呟いたのである。
「王様の死体が、服部の時計台へ吊りさげられているというんです。……風にふかれて、ブランブランしているというんです」
四十、死体批評会の事
並に紅唇の紋章の事