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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
その後かけ違って碌すッぽ挨拶も申さず御無沙汰ばかり致しておりながら、こんなところ素っ頓狂にとび出して声をかけるんだから、聞こえぬふりをして礫き倒して行かれたって文句のねえところなのに、よくまァ停めて下すった。厚く御礼を申しやす」
前田の親分は、これも膝まで手を下げ、
「御丁重な御挨拶で痛み入ります。どういう意気張りがあろうと、大手を拡げて停めなさるあなたを轢き倒して行くような、そんながさつな真似はしねえんです。御言葉の趣旨はよく判るが、そんなふうにおっしゃられると、こちらがまるっきり仁義を知らねえようで当惑いたしやす。それはともかく、一体どういう御用でありましたか」
薄月の光をつらつらに照りかえす電車の軌道を差し挾んで向い合う二人の大親分。いずれも寛濶なる貫祿を身につけ、抜き差しならぬ一問一答をしているさまは、譬えていうなら、二人の明智大将が戦場において馬首を交うるが如き、一種凛然たる趣きがあるのであった。野毛山の親分は、慇懃に挨拶を返し、
「無作法のお詫びはまた改めて致すとして、早速ながら、お尋ねに従ってお願いの筋を披瀝いたしやす」
といって、鋭い眼差を相手の面に注ぎながら、急に吃々たる口調になり、