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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

第三回

七、一陣の夜嵐の事 並に各人各説の事

諸君、騙されちゃアいかん。最初から鶴なんか鳴きゃアしなかったのだ。それに何ぞや国家的瑞兆だと! 不敬極まる話じゃないか。文句はいらん。俺は今諸君に代ってこの非国民に制裁を加えてやるからよく見ていて呉れい」

というと右手の前列に一ト固まりになっていた背広にステッキの一団の方に向い、

「おい諸君、やっちまおう」

と顎でしゃくった。声に応じてバラバラと列から離れたいずれも一ト癖ありげな面魂の十人ばかりが、猛然と幸田の方に突進する。幸田は演壇の下をチョコチョコと駆けて群衆の中に逃げ込もうとしたが、たちまちさっきの壮士風の男に襟首を掴まれて引き戻され、力任せに演壇の下に叩きつけられた。

激昂した群集は鬨の声を挙げて八方から幸田の方へ走り寄って来る。まさに幸田節三が拳の雨に打ち据えられようとしたその時、噴水の鶴は世にも清らかな声で唄い出したのである。それは単調な旋律と単純な階音を持つ古い聖歌のようなものであった。

第三回

七、一陣の夜嵐の事

並に各人各説の事

夜の繁昌に引かえて朝の銀座裏は至って閑寂。況んや元日の午前八時半、門松も枝を鳴かず鳶も鳴かず、この辺のうるさい人畜は一夜のうちにみな死に絶えてしまったかと思われるほどの清々しさ。