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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
いうだけ野暮のようなものだが、これはジョン・ハッチソンとその莫逆の友ルイ・バロンセリの二人でデッチ上げた芝居なので、これについてはまだ書くべきこともあるが、ここではざっと両人の関係を紹介するに止め、さて再び以前の「巴里」に立戻ると、ハッチソンはニヤニヤ笑いながら山木の話を聞いていたが、踏絵がいい終ると急に改まった面持で一座を見廻し、
「軟調のつづきはいずれまた伺うとして、且那さんもお内儀さんもちょっと聞いて下さい。……というのは他でもない、つらつら按ずるに、今朝の一件にはチト腑に落ちかねる節があるんですぜ、御承知か」
「今朝の、って臨検のこと? 知りませんね、聞かしてちょうだい」
と、気味の悪い声をあげたのは印東忠介で、面差は廿二三だが、十七八としか見えぬ発育不良の骨柄。百人一首の業平朝臣のような間伸びした顔をオークル廿八番のグリスペイントで薄化粧をし、右の眼尻の下に入黒子を入れた異様な面態。
ハッチソンは頷いて、
「今くわしく訳をいいます。……今朝の七時半に明石署を放り出されると、みなさんは魚河岸へ朝飯を喰いに行ったね。岩井の旦那は御本宅へ引上げるし、私はすぐ社へ行って方々へ電話をかけて見た」