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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
扉を排して入って来たのは、年の頃四十二三の、骨と皮ばかりに瘠せた背の高い男で、喪服のような黒づくめの装をし、眠そうに瞼を垂れた極めて陰気な人物である。
この者はその名も真名古明という警視庁刑事部捜査第一課長で、緻密な頭脳と着実な性格を持ち、これまでに様々な難事件を解決して来たが、人間嫌いかと思われるほどの黙り屋で、庁内では誰一人真名古の笑った顔というのを見た者はない。甚だ剛直な性で不正に対しては飽くまでも苛酷、たとえ上長といえども爬羅剔抉することを辞せぬ、さながら検察のためにこの世へ生れて来たような人物。読者諸君がヴィクトル・ユウゴウの「噫無情」を読まれたとすれば、あの小説の中に登場して来るジャヴェルという冷執陰険な一刑事を記憶していられるであろうが、真名古捜査課長を一口に形容しようとするならば、まるでジャヴェルそっくりだといえばそれで足りるのである。
真名古は扉口で軍隊式の直立の姿勢をとると、真直ぐに秘書官の机の前まで歩いて来てそこで停った。次長は気味悪そうにその面を眺めたのち、ちと胸を反らし、
「おお、真名古君、元日早々済まんかったが、実は今朝ほど重大な事件が起ったもんだからして、それでこうして」