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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
前田組は林興業に帰属し、鶴見組は日興の傘下に在る、その鶴見組が帝国ホテルも真近い内山下町で騒いでいるという道灌山の電話だから、林は又しても不安に胸を鎖され、あわててそこへ駆けつけることになったというのもまた無理からぬ次第でしょう。
却説、林謹直のオヴァーランドが日比谷公園の近くまで来ると、公園の方に当ってワアッと言う凄まじいどよめきが起った。見ると西門の前に停ったトラックから、物々しく顎紐をかけた警官がドヤドヤと跳ね降り、群集を押返しながら公園の中へ走り込んで行く。林は一丁目の角で自動車を駐め、窓から首を突出してこの騒ぎを眺めていると、これを見付けて駆寄って来たのは、道灌山の養子の駒形伝次。小粋なモーニングに山高帽、苦み走った一文字眉、剃立ての顎も青み渡った勇肌な哥兄。恭々しく一礼すると、
「お待ち申しておりました。何しろ御覧の通りの騒ぎでごぜえまして」
「一体どうしたという騒ぎなのか」
「それがどうも妙な話なんで。……何でも噴水の鶴が鳴くとか鳴かねえとか、その縺れらしいんでございます」
林は苛立って、
「そんなことを聞いてるんじゃない。野毛山が何を騒いでいるというんだ」