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あさひのよろい

あさひの鎧

国枝 史郎

「時事新報」1934(昭和9)年8月25日~1935(昭和10)年3月16日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 239,520 字 · 475 页

青空文庫

「変だねえ」

と桂子はいぶかしそうに云った。

「叡山の裏山へあらわれた時にも、側へ来ずに辞儀ばかりしていたが、でも大変なつかしそうにして、恐縮なんかしなかったものだよ。……それにしてもあの時もそうだったが、今度もあんな方へ指をさして、わたしをどこかへつれて行こうとする。……いいよ、どこへでも行ってやろう。……右衛門や、行ってみようじゃアないか」

「馬鹿な人間などに比べましたら、比較にもならない利口な卯ノ丸、それにお姫様には忠実な卯ノ丸、あのようにお誘いするからには、わけがなくてはなりませぬ。参りました方がよろしいようで……」

そう右衛門は真面目に云った。

「では卯ノ丸や、一緒に行こうねえ」

桂子は足を進めた。

卯ノ丸はいかにも嬉しそうに、十数間の先へ立って、松林の方へ刎ねて行った。

桂子たちは松林の中へはいった。

さっきまで人声がしていたのに、行ってみれば人はいなかった。

でも林の外れにあたり、六人ばかりの人影が見えた。

五人は野武士らしい男であったが、一人はみすぼらしい乞食であった。

朝の陽が午後の陽に変わった頃、桂子と右衛門とは深い谷の底に、茫然として立っていた。