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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
息杖で背後へ反っくり返るのと、楫棒を握って前のめりに屈むんじゃ、から、見た処から役割が違いやさ。
ああ、ああ、ここいら、一面に、己達の巣だったい。東海道は五十三次、この雲助が居ねえじゃ、絵にも双六にもなるんじゃねえ。いざ、道中となった日にゃ、お大名でも、飛脚でも、品川から忘れねえのは、富士の山と、お関所と、大井川と雲助かい。
女づれの遊山旅に、桔梗一本折ればといって、駕籠を舁いだおじさんに渡りをつけねえじゃならなかったに、名物の外郎は、偶にゃ覚えた人があろか、清見寺の欄干から、韮山の虹を見たって、雲助を思い出す後生願は一人もねえ。
ものの三十年と経たねえ内に、変れば変る世の中だ。どうだ伝九、この、お関所あとを見るにつけ、ぼけた金時じゃあるめえし、箱根山を背後に背負って、伊豆の海へ巌端から、ひょぐるばかりが能じゃあるめえ。ちょうど尾花の背景もある、牛頭馬頭で眼張りながら、昔の式を遣ってみべいと、」
「おじいが言うのは私の図星。そこで旦那、共喰の手慰み、鉄拐博奕を切ッつけやした。なんこから狐になって、はたいた方が愚に返って、とうとうね、蜜柑の種を勘定しながら、地体お星様は丁か半か、とあけ方の天井へ、一服吹かしております処へ、ひょッくり、その姉さんが来たんでね。