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わかむらさき

わか紫

泉 鏡花

「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页

青空文庫

それでも竹、へい、あの粋がった年増の女中でござります。あれは貴女、二階の七番からお膳を下げまして、ちょうど表階子の下口へかかりました処で、ソレ地震でござりましょう。ドンと腰を抜きました拍子に、トントントントンと、一段ずつ俵が転がったように落ちたでござります。どういう拍子か、背中を強く擦剥きまして、灸のあとから走るように血が流れたんで、二ツに裂けたという騒動、もっともひきつけてしまいました、へい、何、別条はござりません。

落胆して、お腹が空いたと申して、勝手でお茶漬を掻込んでおるでござりますが、な。

機会と申すは希代なもので、竹がその腰をつきます時に、投りましたお膳でございますが、窓からぽんと物干の上へ飛び出しまして、何と、小皿も箸も、お茶碗なんざ蓋をいたしましたままで、お月様へ供えまする体、や、どうも。」

「まあ。」

「あとで大笑いいたしたことでござります。まず手前どもでは珍事がその位で済みましてございますが、お向うの伊東屋なぞでは、貴女、御夫婦抱き合って、二階から戸外へお飛びなすって、大怪我をなさいました方がござります。

何しろ、一時は人の波が沸きましたように、上下へ覆しまして、どどどど廊下を駈けます音、がたびし戸障子の外れる響、中には泣くやら、喚くやら、ひどいのはその顛倒で、洋燈を引くらかえして、小火