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わかむらさき
わか紫
泉 鏡花
「新小説 第十年第一卷」1905(明治38)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 37,708 字 · 75 页
」
老功に笑って退け、仰向いて障子を窃と。
「まず、おしずまりなされまし、お座敷へも、とんだお邪魔がさしました。」
しかり、魔か、鬼か、崖の総六が小屋に、魅入ったのは事実であった。
翌日になって一切明白。当時関八州を横行して、変幻出没、渚の網に陽炎の影も留めず、名のみ御曹子万綱と、音に聞えた大盗あり。
鐘も響かぬ山家にさえ、寝覚に跫音轟いたが、哄と伊豆の国を襲ったので、熱海における大地震は、すなわち渠等が予言の計略。
文武官、農、工、商、思い思いに姿を変じた、御曹子が配下の賊徒、八面に手分をなし、湯宿々々に埋伏して、妖鬼家ごとを圧したが、日金颪に気候の激変、時こそ来たれと万弩一発、驚破! 鎌倉の声とともに、十方から呼吸を合はせ、七転八倒の騒に紛れて、妻子珍宝掴次第。
就中、風呂敷にも袂にも懐にも盗みあまって、手当次第に家々から、夥間が大道へ投散らした、霰のごとき衣類調度は、ひた流しにずるずると、山から海へ掃き出して、ここにあらかじめ纜った船に、堆く積み上げた。
宝の山を暗まぎれ、首領の隠家に泳がそうと、※のかかる巌陰に艪づかを掴んで、白髪を乱して控えたのは、崖の小屋の総六で、これが明方名告って出た。