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なにがわたしをこうさせたか

何が私をこうさせたか

金子 ふみ子

――獄中手記――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 191,571 字 · 383 页

青空文庫

父には誠意がなく、母には眼に一丁字もなかった。母が買い物をして持って帰った包紙の新聞などをひろげて、私は、何を書いてあるのか知らないのに、ただ、自分の思うことをそれに当てはめて読んだものだった。

その年の夏も恐らく半ば頃だったろう。父はある日、偶然、叔母の店から程遠くない同じ住吉町に一つの私立学校を見つけてきた。それは入籍する面倒のない、無籍のまま通学のできる学校だったのだ。私はそこに通うことになった。

学校といえば体裁がいいが、実は貧民窟の棟割長屋の六畳間だった。煤けた薄暗い部屋には、破れた腸を出した薄汚ない畳が敷かれていた。その上にサッポロビールの空函が五つ六つ横倒しに並べられていた。それが子供達の机だった。私のペンの揺籃だった。

おッ師匠さん――子供達はそう呼ばされていた――は女で、四十五、六でもあったろうか、総前髪の小さな丸髷を結うて、垢じみた浴衣に縞の前掛けを当てていた。

この結構な学校へ私は、風呂敷包みを背中に斜めに縛りつけてもらって、山の上の家から叔母の店の前の往来を歩いて通った。多分私と同じような境遇に置かれた子供たちであろう。十人余りのものが狭い路地のどぶ板を踏んで通って来るのであった。