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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

今日の刀試しには、公然と、奸策が行われていると存じます!』

山浦環は、こう周囲へ向って、訴えていた。

静かだった空気は、彼の凄まじい声も打消すほど、途端に、喧騒の坩堝に落ちていた。

今、斬り人の手から、立会い役の手へ渡された、兄真雄の作――柘植嘉兵衛が持参の一刀を――無下に環が奪ろうとしたからである。

『何をするっ』

『場所がらも弁えず』

『不正があるとは、何を吐ざくか』

蔽い被さって、環を阻めた直胤の弟子や、斬り人の侍たちは、その襟がみや、両腕を把るなり、

『この青二才めが!』

引戻して、試し場の中ほどへ、蹴仆した。

踏まれても、蹴られても、環はすぐ、刎ね起きた。そして、

『卑劣があると観たっ。不正があるっ。行り直せっ』

と、叫んで歇まなかった。

直胤の弟子たちは、

『抓み出せっ』

と、息まいたが、その時、環の叫びへ、木魂して答えるように、観衆の中からも、

『そうだ、不正が見えたぞ。行り直せっ』

という声が、所々に起った。

それを又、打消すべく、

『だまれっ、喧ましい』

『刀は、正直だ』

云い返す者があると、更に、それを圧伏して、

『行り直しっ。行り直しっ!』

と、宣言するように、云って歇まない見物もあった。