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やまうらきよまろ
山浦清麿
吉川 英治
「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页
それが、病躯を削ってゆく――
清麿は、知らないではない。
だが、人には云えない、心の内には、人間の誰にもある苦悶の巣がある。――故郷の事ども、其後の母の死、残して来た妻や子や、兄真雄の境遇にも。
『…………』
沈湎と、今、弟子の前に俯向いている清麿の青白い面には、それがありありと刻まれていた。
いつか、十年はあれから過ぎた。その後、故郷に起った禍も皆、自分が残して来た禍根のように責められるのだった。長国寺の事以来、藩老の矢沢監物から睨まれて、恩人柘植嘉兵衛の失脚――兄真雄へのさまざまな迫害――妻のお咲や梅作の身にも、前の養子先の縁者たちを繞って、種々うるさい事情や拘束も起っていると風の便りに聞いている――。
その上に、数年前、自分の居所もまだこっちから知らせぬ間に、母のお菅も死んだとある。柘植嘉兵衛の消息も知れない。
四谷正宗の、又、清麿は名人のと、人はいう。空な名声は晴れがましく云う。
――だが、誰に今、その一剣を捧げよう。
『清人、よく云ってくれた、これから気をつける。だがな、酒だけは、たんと飲らないようにするが、少しは、ゆるしてくれ。愚な師匠と、笑うだろうが、見ないふりをしていてくれ』