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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

『十数年前、信州の小島村で、お目にかかった山浦清麿でございます』

彼の挨拶を聞くまでもなく、重輔から話を聞いていたので、象山は、

『よく来たのう』

と、当時を追懐して、今の刀匠清麿を懐しげに見た。

そして、清麿から、例の疑いを、問い出さないうちに、象山から云った。

『――聞けばそちは、将来、西洋兵術や砲術が進めば進むほど、日本刀は不要になりはせぬかという迷いを抱いているそうだが、余人の凡工なら知らず、山浦清麿ともある者が、そんなことでは困る』

と、前提して、

『剣は、武士のたましいだ。武士は国体の衛士だ。この国土のある限り武士道はある。武士のある限り、武士のたましいたる剣もなくてはならぬ。――わけても日本刀は、洋刀とは違う。それを鍛つ者の精神、それを帯びる者の精神、二つながら違う。もし、その精神が錆びたり、その精神が失われるようなことがあったら、日本は亡ぶ日だ。――だから日本の亡ぶ日まで、日本刀は朽ちさせてはならぬ。不要になるなどとは、以てのほかな夢想で、鍛て、もっと、その信念を以って鍛て』

西洋学者といわれた象山の口からそう云われたのである。清麿は、もう迷わなかった。