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やまうらきよまろ

山浦清麿

吉川 英治

「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页

青空文庫

又、家中の北沢某も又、

(自分も、試してみたが、やはり折れた――)

と、云ったとか、云わないとかで、揉め事があったりして、直胤一門は、とにかく、噂に対して、激怒していた。

そこで、公開して見せるとなった、今朝の長国寺の「試し」である。折れるか、折れないか、自分等の作刀を試す会だとは称っているが、その目標が、無名鍛冶の山浦真雄にあることはいう迄もない。――途々、嘉兵衛の口から、そんな事情を聞かされると、環は、

(これは、兄の名誉ばかりではないが)

と、遽に心配になった。

元々、兄は刀鍛冶ではないのだ。山家の一郷士に過ぎない。性来、刀を鍛つのが好きで、人に頼まれるまま鍛って来たが、まだその道の専門家とは決していえる腕ではない。

その兄の鍛刀と――一世に名匠の聞えの高い水心子正秀の高弟直胤の刀と――何うして較べ物になろう。

(大丈夫)

と、嘉兵衛は思いこんでいるが、環は内心、案じずにいられなかった。少年の頃、兄の対う鎚を打ったことのある環には、兄の腕が、たとえ其後、上達しているにせよ、どの程度か、分っていた。

『嘉兵衛様、その「試し」の場所へ、私もひとつ、お連れ下さるわけには、行かないでしょうか』