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やまうらきよまろ
山浦清麿
吉川 英治
「講談倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1938(昭和13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 45,573 字 · 91 页
しかも、前取りした金はとうの昔に費ってしまっている。
閾の高い思いを越えて、清麿は、恩師の前に、面目ない顔を伏せた。
『どうした。ひどく痩せたじゃないか』
清音に、そう云われる程、彼は辛い気がした。
『――そう改まるな。今日呼んだのはほかじゃないが、武器講の一件だ。弱ったのう。彼方此方から、矢の催促はまずよいとして、余り長びくので、近頃は、そちに対して、種々な取沙汰だ』
『御恩を仇で返したような始末、何とも、お詫びのいたしようが御座いません』
『わしの立場か。……ムム、それもわかっておるじゃろう。――だが、もっと案じられるのは、そちの立場だ。近頃、そちはよく、勤王方の志士たちと、往来しておるそうだな』
清麿は、ぎくとした。恩師清音は、幕臣である。
『――で、近頃そちも、わざと足を遠くしておるなと察しては居ったが、武器講のお世話人、加藤宅馬殿を初め、多くは皆、幕府方の人々じゃ。なお、始末が悪いわい』
『おことばでござりますが、清麿は刀鍛冶でございます。天子の民、日本の一鍛冶と生れたことを、果報と思っておりますが、何処までも、てまえの使命は刀を鍛つことと、分を存じておりますから、勤王方の志士たちと、往来はいたしておりましても、幕府を倒す運動などに、組しているわけではございません。