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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

目、口、鼻、耳をおおい隠すすき通ったプラスチックらしい仮面であった。その仮面にはやはり透明で柔軟な細い管がついていて、その管の先に、これも透明な小型の酸素ボンベがついていた。人魚たちはそのボンベをわきの下にくくりつけた。

「お客さまも、これをおつけになれば、いくらでも水の底にもぐっていられますのよ」

二匹の人魚は、岩の岸にはいあがり、水ぎわに腰かけた形になって、透明仮面とボンベとを、かれの顔とわきの下につけてくれた。影男の殿村は、やさしい人魚たちのなすがままに任せた。

「さあ、わたくしたちがお手を引いてさしあげます。そして、海の底の不思議を見にまいりましょう」

両方から手をとられて、海中に身を浮かせた。少しも冷たくはなかった。人はだほどのなま暖かい水だ。それに、ぴったり身についた黒ビロードの衣類は、中にゴムでもはいっているのか、少しも水を通さなかった。首と、手首と、足首できゅっと締まっていて、そこから水がしみ入るようなことはなかった。

黒ビロードの人間の姿が、二匹の美しい人魚にはさまれて、海底へ沈んでいった。ともすれば浮き上がりそうになるからだを、両側の人魚が巧みに下へ下へと引きおろしてくれた。