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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

仮面の中へボンベの酸素が適度に漏れているらしく、少しも息苦しくはなかった。

見かけによらず、その辺の海の底は浅かった。底の岩とすれすれに、人魚たちはかれを導いていった。

行く手には巨大な海藻の林があった。幅一尺も二尺もあるコンブに似た植物が、巨獣のたてがみのように、無数にゆらいでいた。人魚たちは、そのぬるぬるした藻の林をかきわけて進んだ。

しばらく行くと、海藻がまばらになって、向こうの見通しがきくようになったが、そこは海底の谷間とでもいうような、深いくぼみになっていた。底のほうほど暗くなって、ぼんやりとしかわからなかったが、その青い水の層を通して、世にも異様なものがながめられた。

黒い斜面の岩はだに、いくつかの巨大な花が咲いていた。それはどんな植物の本でも、一度も見たことのないような、ぶきみにも美しい桃色の巨花であった。

だんだん近づくにつれて、その桃色の花は、いよいよ巨大に見えてきた。さしわたし四メートルもあろうかと思われる奇怪な五弁の花であった。

中心のシベに当たるところに、五つの美しい顔が笑っていた。その顔はみな、例の透明なビニールの仮面をつけていたことがあとになってわかったが、遠目には、透明仮面は少しもじゃまにならないで、あからさまな五つの美女の顔が、岩はだに密着していた。