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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

地面全体が、花のような顔と、すべっこい桃色のからだとで、かれのほうに笑いかけていた。

すぐ前の女体は大きく、顔もはっきりわかったが、山すそからかれの目が上のほうへ移るにしたがって、顔は小さく見わけられなくなって、はては一面に白っぽい女体のつらなりの中へ溶けこんでいた。それが、はるかかなたの空にかすむ山頂まで無限につづいている光景は、言語に絶する壮観であり、むしろ神々しくさえあった。この世の裏を見つくした影男にも、東京の地下にこれほどの驚異が隠されていようとは、思いも及ばぬことであった。

地下に無限の大洋を広げ、地下に無限の山脈をつらね、その山脈を女体によって築くとは! その女体の数は、幾千幾万を数えてもまだ足りぬことであろうが、いったいこれほどの女を、どこから狩り集めたのであろう。それらの地下の構成のすべては、古来のいかなる王侯の富をもってしても、遠く及ばぬところではないだろうか。今の世にありえないことだ。しかも、夢ではない。どんな魔法でも、これほどの驚異を生み出すことはできない。

かれはむせかえる女体とにおいに包まれ、うごめく豊満な肢体に接し、人肉の大海に漂うただひとりの男性であった。