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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
その一つ一つにちがった膚の色、肉のふくらみ、曲線の交錯、サイレンのようにみだらな笑顔、それらの細部を見つくすまでは、男心を飽きさせることはないのだ。
そのとき、どこからともなく、おどろおどろしく太鼓の音が聞こえてきた。怪談作家ブラックウッドが、アマゾン川の流域の無人の境で聞いたというあの別世界の音響のように、所在不明の太鼓の音が響いてきた。
三人は慄然として立ちどまり、互いの目をのぞき合った。
太鼓についで、静かに起こる弦楽の音、十数張りのバイオリンのかなでるこの世のものならぬ妖異のしらべ。それにつれて、裸女の森林をゆるがす大音響がわき上がった。美しく、雄大きわまる女声の四部合唱。木々の幹なる裸女どもが、口をそろえて歌っているのだ。その歌声は洞窟にこだまし、八方の鏡にはねかえされて不思議な共鳴を起こし、無限のかなたまでつづく大森林全体が、歌に包まれ、歌に揺れているように感じられた。
耳をろうする歌声は、あるいは低く、あるいは高く、いつまでもつづいた。そのリズムに取りまかれ、リズムに身も浮き上がり、三人のからだが徐々に調子を合わせて動揺しはじめたのも無理ではなかった。