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かげおとこ
影男
江戸川 乱歩
「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页
撃てば女たちを傷つけるにきまっているからだ。
八角形の鏡のへやは、いまや沸きたぎる人肉のるつぼと化した。鏡の影を合わせて、幾千人の裸女と黒衣が、乱れ、もつれ、あわだち、ゆらいだ。百千の口からほとばしる悲鳴は、阿鼻叫喚の地獄であった。
影男と須原とは、この混乱の中を、ようやく一方の鏡の壁に達していた。かれらは手をつなぎあってギラギラ光る壁づたいに走った。その行く手に立ちふさがる女体は、次々と転倒し、足を空ざまにして悲鳴をあげた。
この鏡の壁をつたって一周すれば、どこかに別のパノラマ世界への出口があるだろう。ふたりは期せずして、それを考えたのだ。ちょびひげの説明のなかに、ちらとそんな口ぶりがあったのを忘れなかったのだ。別のパノラマ世界へはいれば、そこにはまた、別の逃亡手段がないとはかぎらない。ちょびひげはそこをこの世の果てだといった。追いつめられた極悪犯人の逃げるところは、もうこの世の果てのほかにはないのだ。
鏡をつたって走っていると、鏡の内側にも、外側にも、無数のひしめく肉体があった。それが押し合い、押し返し、はねのけ、つかみ合い、うめき、叫び、泣き、わめいていた。