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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

「わかった、わかった。ぼくは男の女王バチだっていってるじゃないか。女王バチにはたくさんの異性を愛する権利がある」(笑い)

「異性ばかりじゃないわ。鮎沢さんは、男の子にだって善神になるんじゃありませんか」(笑い)

「むだごといってるときじゃない。ぼくは忙しいのだ。それじゃ、わかったね。あすの晩六時に、ここのグリルへ、咲子さんを連れてくるんだぜ。六時だよ。そのまえに、できればぼくに電話をかける。いいね。それじゃ、きょうはこれだけ……」

鮎沢の両手がのびて、はすっかけに女を抱き上げた。そして、くちびるを合わせたままドアのところまで歩いていって、そっとそこへおろし、ドアをひらいて、さあどうぞと片手で廊下のほうをさし示し、騎士のように正しい姿勢で、軽く一礼した。

女が「負けた」という顔つきで、笑いながら立ち去っていくと、鮎沢は、電話のところへ飛び帰って、今日新聞の航空部を呼び出した。

「飛行士の北野君いませんか。こちらは大阪の鮎沢……ああ、北野君、いてくれてよかった。このあいだ頼んでおいたこと、すぐにやってもらいたいんだ。一つの善事だからね。社をクビになったら、きみの身がらはぼくが引きうける。