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かげおとこ

影男

江戸川 乱歩

「面白倶楽部」1955(昭和30)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 154,133 字 · 310 页

青空文庫

その夜、小林の死体をのせた自動車は、それらの土地のうちで代々木からは最も遠い尾久のあき地に到着し、ヘッドライトを消して停車した。非常に寂しい場所で、人家も遠く、まして深夜のことだから、人に見とがめられる心配はなかった。

影男と部下とは、死体入りの麻袋を両方からつりさげて、あき地のまんなかの古井戸に急ぎ、麻袋をその井戸の底へ投げ込んだ。それから、用意してきたシャベルで、そばに盛り上げてあった土を井戸におとし、懐中電灯で照らしてみて、麻袋がまったく見えなくなるまでそれをつづけた。

これで第一段の仕事は終わったのである。麻袋を自動車からおろしてから十分とはかからなかった。実に簡単な仕事である。かれが両夫人の前で広言したことはうそではなかった。なんという手軽な死体処理法であろう。

ふたりはそのまま自動車にもどって、また、いずくともなくやみの中に消えていった。だが、まだ第二段の処置が残っていた。

その翌朝、影男は尾久のあき地へ、地主綿貫清二となって姿を現わした。和服にもじり外套を着てソフトをかぶった小金持ちというかっこうである。

かれはあき地の中を歩きまわり、古井戸をのぞきこんで、なんの手抜かりもなかったことを確かめると、その土地の仕事師の親方の家をたずねた。