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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

大牟田敏清とは親戚の間柄で、あれの父とごく親しく行来していたものですよ」

わしは例の老人らしい作り声で、落ちついて答えた。

「アア、里見さんでございましたか。よく承知致して居ります。いつ御帰りなさるかと、実は心待ちにしていた位です。子爵夫人も、このことを伝えましたら、定めしお喜びでしょう。瑠璃子さんとは、度々あなたのお噂をしていたのですから」

川村は例の新聞記事を読んでいたと見えて、この白髪の成金紳士にさも親しげな口を利いた。

「エ、瑠璃子さんといいますと?」

わしは小首を傾けて見せた。ナニ知らぬものか、わしの帰郷の最大目的は、過去の妻瑠璃子の息の根をとめることであったのだもの。だが、大牟田敏清ならぬ里見重之は瑠璃子を知ろう筈はない。

「イヤ、ご承知ないのはご尤もです。瑠璃子さんといいますのは、なくなった子爵の夫人で、当地の社交界の女王といってもよい方です。若くて、非常に美しい方です」

「ホウ、そうですか、大牟田はそんな美しい奥さんを持っていたのですか。わしも是非一度御目にかかって、故人のことなどお話ししたいものですね」

「如何でしょう、一度子爵邸をご訪問なさることにしては? 僕ご案内致しますよ。