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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

併し、旦那様にはお医者の診察を受けている体にして置かないと、迚もやかましいので、甚だ御迷惑だけれど、名前丈けの主治医になってくれ、そして若し旦那様から容体を尋ねに来る様なことがあったら、よろしく答えて置いてくれ。という注文なんです。奥さんは見ず知らずの開業医にさえ、醜い肌を見せるのはいやだと、駄々をこねたんですね。美人という奴は実に難儀なものではありませんか。ハハ……」

アア、住田医学士も大牟田子爵に劣らぬ馬鹿者だ。彼は医者の癖に、まんまと瑠璃子の口車に乗ってしまったのだ。

腫物だって? ハハ……、なんて恐ろしい、でっかい腫物だったろう。

わしは、上海滞在中にその事を考え抜いて、やっと一つの結論に到達したのだ。皆さんは瑠璃子のY温泉への転地療養がたっぷり半年もかかった事を記憶されるだろう。しかもその三月程前まで、わしはチフスで入院していた。その入院期間が又殆ど三ヶ月であった。通計すると約十二ヶ月の間、わし達の夫婦生活が妙な具合になっているのだ。

わしは幾度も指を折って数えて見た。そしてとうとうある恐ろしい秘密を感づいた。この長い別居生活と、いつかの晩川村と瑠璃子とが囁いていたもう一つの殺人と結びつけて見て、わしはゾッとしたのだ。