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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

わたくしが病を養って居りました部屋もついこの向うにございますわ」

流石は妖婦、いつか顔色をとり直し、平然と応対している。

「オヤオヤ、そうでしたか。こいつは大縮尻だ。志村の奴わしに何も云わないものですから、非常に失礼しました」

わしが白々しく詫びて見せると、相手もさるものじゃ。

「イイエ、同じ人手に渡るにしましても、あなたがお求め下さいましたので、こんな仕合せはございません。いつでも見たい時には見せて頂けますもの」

とバツを合せて来る。

「それでは、座敷をお見せするにも及びませんが、併し、中には模様替えをした部屋もあり、少しも手をつけないで元の風情を残した部屋もあり、いく分は様子が変っているかも知れませんから、一通りご案内致しましょう。瑠璃子さんのご病室なども、思い出深いものがあるでしょう」

わしは何気なく云って先に立ち、部屋から部屋へと見て廻った。どの部屋も、瑠璃子が湯治に来ていた時分とは、すっかり模様が変っていた。何ぜそうしたか。ある一室の陰惨な感じを引立てる為であった。明るい部屋部屋の間に、たった一間、少しも手を加えぬ、しめっぽい古部屋が残っているのは如何にも効果的ではないか。