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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

「で、子供は? 子供は?」

たまり兼ねた川村が初めて口を利いた。その声のみじめに震えていたことは。

「不思議なこともあるものですよ。その赤ん坊はまるで生れたばかりの様に、少しも腐敗せず、死んだ時のままの姿で、箱の中に眠っていたではありませんか。執念ですよ。小さいものが生きよう生きようとする精気でしょうか。イヤ、それよりも、恐らくは、姦夫姦婦の為にあざむかれた男の恨みに燃える執念の為せる業ではありますまいか。恐ろしいことです」

「で、その子供は? その子供は?」

川村が同じ言葉を、上の空で繰返した。

「ごらんなさい。ここにいるのです」

わしはツカツカと床の間に近づいて、例の桐の箱の蓋をとり、中から大きなガラス瓶を取り出して、一同の前に置いた。

と同時に、「クウー」という様な異様なうめき声がしたかと思うと、瑠璃子が、紙の様に青ざめた瑠璃子が、目をつむって、川村の両手の中に倒れかかっていた。流石の姦婦も、この恐怖には、最後の力も尽きて失神したのであった。

ガラス瓶の中には、手足をかがめ、顔も何も皺くちゃになった、灰色の赤ん坊が、白い目で、じっとこちらを睨んでいたのだ。