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はくはつき
白髪鬼
江戸川 乱歩
「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页
わしの白髪を見て下さい。三十歳の若い身空で、この真白な白髪頭、わしはその地底の五日間に、三十年の苦しみを嘗め尽したのじゃ。そして、墓穴を抜け出した時には、心身共に六十歳の老人と化していたのじゃ。古往今来、これ程の苦しみを嘗めた人間があったじゃろうか。
復讐は、受けた苦痛とカッキリ同じものを、相手に返上することだ。姦婦瑠璃子を気絶させた位では、わしの受けた苦しみの百分の一にも足らぬではないか。ウフフフ、……皆さんそうじゃろうが。つまりわしは、これからまだ、今までの百倍の苦痛を、姦夫と姦婦に味わわせてやらなければならないのだ。わしの仕事はこれからなのだ。
さて、大牟田瑠璃子の気絶騒ぎは、幸いその場に住田医学士が居合わせたので、介抱よろしきを得て、別段のこともなく終ったが、それ以来というもの、姦夫姦婦の心の隅に恐ろしい不安が、つき纏って離れなかった。
だが、怖がらせるのが目的でしたこととは云え、怖がらせ切にしてしまって、警戒心など起されては、これからの計画を行う上に都合が悪い。わしは今度は、逆に彼等の恐怖心を柔げる為に骨折らねばならなかった。つまり昔の裁判官が拷問を行う場合、存分痛い目を見せて、犯人が苦しみ疲れた頃を見はからい、一先ず責め道具を引込め、水を飲ませたり、粥を啜らせたりして、いたわってやるのと同じ