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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

姦夫姦婦の情痴の限りを目撃したのだ。

わしは決して売女の如き瑠璃子に愛着を感じていた訳ではない。彼女こそ憎みても憎み足らぬ仇敵なのだ。だが、アア、あの愛らしい笑顔! あの笑顔がわしのはらわたを抉るのだ。

わしは全身総毛立ち、毛穴という毛穴から、血の様な油汗の流れ出すのを感じた。

姦婦め! 売女め! このわしは、嘗ての大牟田敏清は、白髪の復讐鬼と変り果てた今でさえ、貴様のその笑顔を見ると、総身の血が湧き返るのだ。それ程も、わしは貴様の様な人非人に溺れ切っていたのだ。それ故にこそ――貴様の笑顔が耐え難く愛らしければこそ、貴様達両人に対するわしの恨みは燃えるのだ。三千世界を焼尽す焔となって燃えるのだ。

畜生めら、今に見ろ、地獄の底から這い出して来た白髪の鬼の執念の恐ろしさを、思い知る程見せてやるぞ。ウフフフ、……その時こそ、貴様達、どんな顔をして、悶え苦しむことだろう。アア、わしは、それを待ちこがれているのだ。だが、もう長い事ではないぞ。貴様達のむごたらしい最後も、もう遠い事ではないぞ。

わしは姦夫姦婦の痴戯を見るに耐えず、油汗でニチャニチャする拳を握りしめ、それを空に打ちふり打ちふり、大牟田家の別邸を走り出し、激情の余り、どこをどう歩いたかも知らず、長い時間を費して、我宿に帰りついた。