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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

わしは甦り始めたのだ。

初めは身体がなくて、ただ心丈けがある様な気持、次には何もないのに、ただ重さ丈けがある様に感じられて来た。この重い感じは一体何だろう。自分か他人か、考えようとしても考える力がまだないのだ。

暫くすると、心持が少しずつハッキリして来た。重い感じが益々重くなり、漸く我が身体の内で、喉丈けはあることが分って来た。心も重さも喉にある。何物かがわしの喉をしめて、息をとめようとしている感じだ。

「放してくれ、俺の喉からその手を離してくれ」

心で叫び続けている内に、何か訳の分らぬ極微の分子が、四方八方から集まって来る様に思うと、それが段々に安定して、自分というものが、ハッキリ意識された。

だが、まだ何が何だか少しも分らぬ。あやめも分かぬ暗闇と、死の様な静けさの中に横たわっている一物は、わしの身体だ。縦か横か。どちらが上でどちらが下かも分らなかったが、やがて、背中に固いもののあるのが感じられて来た。

「アア、俺は仰向きに寝ているのだな。眼をパチパチやっても、何も見えぬ所を見ると、俺は、今真の闇の中に寝ているのだな」

そこで初めて、わしはありし次第を思い出すことが出来た。