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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

泣いても、わめいても何の効果もないと悟ると、今度は、あやめもわかぬ闇の中を、棺につまずき、石壁に突き当りながら、滅多無性に走り廻った。どこかに、壁の隙間でもないかと、駄目とは分っていても、探し廻って見ないではいられぬのだ。

走り廻る内に、わしは方角を失ってしまった。出口はどちらなのか、さっき破った棺はどの辺にあるのか、探れども探れども、手に触れるものとてはない。わしは、よみじの様な暗闇の真中に、一人ポツンと取残された。

この闇が、どこまでも、永遠の彼方まで続いているのではないかと思うと、何とも云えぬ淋しさに、身がすくんだ。

わしは、音もなく、色もない暗黒世界の恐ろしさを、あの時程痛切に感じたことはない。

今までは、逃げ出そうと、夢中になっていたので、さ程でもなかったが、いざ、この暗黒世界から、永久に出られぬ運命と極まると、闇の怖さが身にしみた。墓場とは云っても、そこに眠っているのは、わしの先祖の死骸ばかりだ。それは別に怖いとも思わぬ。ただ、なんにも見えぬということが、なんにも聞えぬということが、限りない恐怖となって、ひしひしと身に迫った。

アア、光がほしい。