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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

わしはつい、あのダンテスと自分の身の上を比べて見た。一体どちらが不幸だろう。ダンテスには恐ろしい獄卒の見張りがあった。だが見張りがある方がまだしも仕合せだ。ひょっとして、頼みを聞いて、自由を与えてくれまいものでもないからだ。このわしには頼もうにも獄卒がいないではないか。

獄卒がいなければ、三度の食事を運んでくれるものもない。ダンテスは餓死する心配がなかったのだ。従って、あの固い漆喰壁を掘って、気長な脱獄を企てることも出来たのだ。

わしだとて、十日二十日もかかれば、この石壁を掘り破ることも出来るであろう。だが、わしには弁当を運んでくれる人がないのだ。

アア、何というみじめな身の上であろう。あの恐ろしい物語の主人公ダンテスさえ羨ましく思わねばならぬとは。

併し、かなわぬまでも!

わしはふとダンテスの古智を学んで見る気になった。蝋燭を地上に立てて、鉄製の燭台を武器に、石壁にぶつかって見た。わしは、汗みどろになって、泣きながら、唸りながら、燭台をふるった。休んでは始め、休んでは始め、一時間程も、石壁と戦った。

だが、アア、何のことだ。わしは蝋燭の尽きることを勘定に入れていなかった。