轻松读懂日语经典作品
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はくはつき
白髪鬼
江戸川 乱歩
「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页
皆さん、その時のわしの気持を察して下さい。今でもあのくやしさは忘れられぬ。こうしていても、ひとりでに拳が握られて来る程だ。
アア、こんなことと知ったなら、何苦しんで墓穴を抜け出して来ようぞ。あのまま地中の暗黒界に飢え死んだ方が、どれ程ましであったか知れぬ。穴の中の恐ろしさ苦しさも、今妻の不義を見せつけられた術なさに比べては、物の数ではなかった。
あの時、わしの怒りが半分も軽かったなら、わしはきっと、我を忘れて「不義者奴」と叫びさま、茂みを飛出し、彼等両人を掴み殺しもしたであろう。
併し、わしの怒りは、その様な世間一般の怒りではなかった。真の怒りは無言である。物云うことも忘れ、身動きすることも忘れ、我身がそこにあることさえ打忘れて、わしは化石した様にほし固まってしまった。
わしは最早人間ではない。怒りの塊であった。彼奴等ここで一体何をしようというのかと、息もせず、瞬きもせず、静まり返って控えていた。
不義の二人は、誰よりも恐ろしい大牟田敏清が、一間と離れぬ木蔭に身を潜めているとは夢にも知らず、いつかわし達夫婦の為に作らせたベンチに腰をおろし、肌と肌とを押しつける様にして、ひそひそと睦言を交し始めた。