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はくはつき

白髪鬼

江戸川 乱歩

「冨士」大日本雄弁会講談社、1931(昭和6)年4月~1932(昭和7)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 112,046 字 · 224 页

青空文庫

ソッと取出して、お前の勝手に使ってしまえ」

賊のこの一言で、わしは彼の大資産を口ずから譲り受けた訳だ。もう何の気兼ねをすることもない。わしはあの無限の財宝を、大復讐の費用として、思う存分使うことが出来るのだ。わしは余りの嬉しさに、思わず相好がくずれ相になるのを、やっとのことで食いとめた。

「だが、あんまり巧くばけているので、どうも俺には分らぬ。お前は一体誰だ」

賊は又小声になって、恐ろしい質問を発した。

「名前を云わなくても、わたしの外にあの秘密を知っているものはないのだから分っているじゃありませんか」

わしは実に大胆不敵な返事をしたものだ。

「ウン、そうか。俺も多分お前だろうと思っていた」

仕合わせにも、賊は少しも疑念を抱かず、しきりと肯いて見せた。

その内に立話が余り長引くものだから、しびれを切らせた警官が、わし達を引分けて、賊を連れ去った。わしはホッと胸なでおろして、遠ざかり行く海賊大首領のうしろ姿をぼんやり眺めていた。

さて、その翌日、わしは愈々上海をあとにして、故郷のS市へと出発した。上海滞在の一ヶ月半に、練りに練った復讐計画によって、憎むべき姦夫姦婦の上に世にも恐しき地獄の刑罰を科する為に。