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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
加十はさっきの狼狽も忘れたように一種横着な面構えになり、安楽椅子にフンゾリ返ると、
「これァますます痛烈なことになった。元来この「皇帝殺人事件」の事実を知っているものは、有明荘のお馬婆と多少の官憲を除くと、広い東京でこの俺ただひとり。のみならずこの俺なるものは犯罪のつい五分前まで現場にいた唯一の証人だ。俺はさっき犯人と誤認されたと知ったとき、なにしろ絶好のチャンスだから、新聞記者冥利に胆太く腰を据え、たとえ一ト月二タ月未決に繋がれても、最後まで俺の身分を明さずにこの事件のドンヅマリまで交際い、必ずこの大スクープをモノにし、日ごろ人もなげな一流新聞の半端野郎どもを一人残らず絶倒させてやろうと決心したが、情況は追々突拍子もない工合に発展して来て、これではなんとしても後に退けぬことになった。……しがない五流新聞の雑報記者が皇帝に間違えられる! そしてその間違いを起したのは警察当局だというんだから、これだって大した特種じゃないか。この経緯を諷刺的に素ッ破抜いたら、日本国中が引っ繰り返って笑うだろう。……いや、それどころじゃない。察するところ政府では、この事件を厳重に隠秘してしまったらしいから、俺のやりようによっては内閣をぶッ潰すことも出来るのだ」