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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
と、すこぶる意気昂然たる体である。加十がいうのは嘘ではない。外国にはよくあることだが、秘密政治というものはいつも野党が政府を攻撃する武器になっている。政府のこういうやり口や、政府と産業会社の秘密めかしい連契などが曝露されると、或いは内閣が潰れぬものでもない。加十が昂奮するのは無理もないのである。
作者はこの小説の第一回において、古市加十なる人物を東京会館の玄関から引張り出したまま、どういう閲歴を持つ人物か只の一度も説明しなかったが、この者は北海道農科大学の土木科の卒業生である。土木とは奇抜な学科を選んだものだと思われるであろうが、そんなことをいって見たって仕様がない。当人にはそれ相当の抱負があってのことと思われるが、卒業して見ると果せる哉、就職口などはない。しばらく北海道の奥で小学校の先生をしていたが、その後さしたる目的もなく上京して、喰うや喰わずに下宿に転がっているところを同郷の先輩幸田節三に救い上げられ、夕陽新聞の雑報記者として働くようになったのは今からちょうど一年ばかり前のこと。何しろ土木学を専攻しようと企てるような地味な人物だから、才気溌剌という工合にはゆかないが、一面に愚直を絵に描いたような、判り易くいえば土方の棒頭ふうな磅たる気宇を持ち、容易に転位せぬ代りに、一旦意気に感じたらその者のために