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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

「これが世に言う腐れ縁さ。勘弁して貰うより仕様がない。岩井の旦那には申訳ないが、出来てしまったものはどうするものか」

踏絵は急に眼を瞋らせ、

「いい加減にとぼけて置け」

「何だって」

「今朝の鶴子の一件はありゃどうしたんだい。なぜ鶴子が殺された? その訳をお前が知らない筈はなかろう。だからわちきは」

山木は慌しく踏絵の袖を引き、キョトキョトと給仕のいる方をぬすみみながら、

「おい、何をいい出す」

踏絵は不貞腐ったようすで煙草の煙を噴き上げながら、

「あわてるない。お前が殺したといってやしない、あまり水臭いからさ」

山木は血相を変えて、

「詰らねえことをいうな。訳があるというなら、むしろそちらの方が知ってるだろう。……ちょいと伺うがね、踏ちゃん、君は陰では鶴子の悪口ばっかりいってる癖に、どうして鶴子のところへばかりササリ込んでいたんだい。それにさ、噂に聞けば何か只ならぬ関係になっていたというじゃないか。……なんでそんな手のこんだ真似をしていたんだい」

踏絵はサッと血の気をなくして、

「やかましい。それがどうしたというのさ。そんな余計なお節介をするより、自分の身の始末でも考えるがいいや、とんちき」