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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
「このごろ世間の評判では日比谷公園の鶴の噴水が歌を唄うということですが一体それは真実でしょうか。実を申すと私はついこのごろ東京に着いたので、一向詳しいことを知らないのですが」
と唐突に言葉をかけた。
どういう次第か知らぬが、日比谷公園の池の真中に立っているあの様子のいい噴水の鶴が、この一週間ほど前から時々美しい階音で歌を唄うようになった。いうまでもなく歌時計ではないから、朝の目覚めに極って鳴り出すというのではなく、ノンシャランに刻を定めずに唄い出すのだから、うまくその時に行き合った人は少ないが、好運なその少数の人達の話ではそれはどうも滅法もない美しい音だというので。――或者はオルゴールのような細い透き通るような音だったといい、或者はパイプオルガンのような壮重極まりない音だったと語り、音についての感想はまちまちだが、然しそれは単なる市井の妄談ではないらしく、日比谷公園の園丁長が自身で親しくこれを聴き、和歌を一首添えた美辞麗句的な目撃記を「夕陽新聞」に寄せたので、日比谷公園の青銅の鶴が噴水の飛沫とともに美しい歌を唄い出すというのはもはや紛れもない事実になり、これは何か国家的な瑞兆に違いないというので「唄う鶴の噴水」