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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
……何かほかにまだ」
「もう少しだ。……するとその娘が生きた鶴子を見た最後の人間になるわけか」
「さいです」
「その後に鶴子の住居へ上って行ったものはなかったか」
「ありませんでしたねえ」
「事件のあった後で誰か玄関から出て行った者はないか」
「誰も出てまいりません」
「どうしてそれが判るんだね。玄関に立番しているわけでもなかろう」
「誰が立番なんぞするもんですか、冗談じゃない。……それはね、あなた、玄関の扉を開閉するたびに、電気仕掛で妾の部屋のベルが鳴るようになっているんです」
「つまり、事件のあとは一度も鳴らなかったのだな」
「後にも前にも、花が帰ってからお巡査さんがやってくるまで、只の一度だって鳴りはしませんでした」
「とめという家政婦が帰ったのは」
「十一時半ごろ、いつものように勝手口の鍵を妾に渡して帰って行きました」
「その鍵は?」
「妾がここに預ってます」
「一つしかないのか」
「さいです」
「それでお前は何時ごろに事件を知ったのか」
「アッという声を聞いたのはちょうど四時だったと思います」
「崖下のアッという声をここで聞いたのだね」
「さいです。自慢じゃありませんが耳は聡いですわ」