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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

せめても元日を祝う貧しい娘の心根も忍ばれていとしげで。

真名古は窓際にムンズリと坐ると愛想けのない口調で、

「鶴子のところへ出入するようになったのはいつ頃からか」

とやりだす。花は低く首を垂れたまま泣き出しそうな声で、

「去年の十月頃からですわ」

「鶴子はいろいろお前に打明話をしたそうだな」

「冗談ばっかり言ってましたの」

「鶴子はこのごろ、何か悲しいとか、死にたいとかと口走った事はなかったか」

花は眼を瞠って、

「いいえ、一度も」

「お前は王様の顔を知っているか」

「存じてますわ。鶴子さんにいく度も写真を見せられましたから」

「ずいぶん美男子な、そう思うだろう」

真名古がこういうと花は、あら、といって額まで真赤になってしまった。真名古はその顔に眼を注ぎながら、

「まだじかに一度も逢ったことはないのだね、残念だな」

「でも、訪問着のお仕立をホテルへお届けすることになってますから、近々お目にかかれますわ」

と答えると、顎を襟に埋めて急に考え込んでしまった。真名古は黙ってそれを見ていたが、手を伸して窓の障子を開けると、すぐ眼の上に有明荘の建物が突き立っている。

真名古はその方を指さしながら、