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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

いやしくも不正と認めたら神をも告発することを辞せぬであろう、その峻烈さはまさに奪肉刳骨、庁内ですら一種異様な憂鬱に襲われるのである。

この人物は大正十一年の東大哲学科の出身で、「矛盾の哲理」という警抜な卒業論文によって今でも同期生の記憶に残っている秀才だが、卒業すると同時に引手あまたな就職口を尻眼にかけ、黙々と警視庁の巡査部長を拝命してしまった。鰥寡孤独の人間で親族もなければ妻もない。毎夜夜半まで官舎の古びた机に倚って孤影凝然と犯罪学の研究に従っている、いわば検察のためにこの世に生れて来たような人物。果して真名古はこの政府の処置に忿懣を感じたと見え、辞職願を懐中にし、陰々たる殺気を身に纒い、さながら妄執の如くに立上って来た。たとえ警視庁の全機能をあげて妨害しようとも、必ず退っ引ならぬ証拠をあげ、皇帝を殺人犯人として検挙する決心なのである。

政府と一検察吏の刻薄な争闘が開始されようとする。警視庁の秀才が寄ってたかって充分な整備してしまった現場から、真名古がどのような方法で他殺の証拠をあげるか、この経緯こそはなはだ興味深いと思われるが、事実が探偵小説と違うところは、探偵が浪花節の英雄のような超人的な働きをしないところにある。