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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
「あなたは、まアなんてブキッチョなんでしょう。そんなふうでは、あたしのような子供にも馬鹿にされてしまいますわ。多分あなたは新米の刑事さんなのね。……あたし、いわないつもりだったけど、あまりお気の毒だからいいますわ。……鶴子さんはね、何か大変なものを王様から預ってるといって苦にしていました。それがどんなものか、あたしも知らないのですから、あとはあなたが精出して探偵なさいね」
真名古は、いや、と挨拶とも礼ともつかぬ声を出して立上ると、
「昨夜、あの事件のあった時、鶴子のところには王様しかいなかったのだが、すると、お前さんの誰だかというのは、つまり王様のことなのだな」
癇の強い娘と見え、これを聞くと花は痙攣った顔になり、今にも卒倒するかと思われるような眼つきで真名古を見上げながら、
「待って下さい、あの時王様だけしかいなかったというのはそれは本当」
真名古はのっそりと突っ立ったまま、冷然たる口調で、
「調べに行って見ると王様だけしかいなかった。食堂にも二人で食事をした形跡しか残っていないというのだ、……いやいろいろどうも」
といって階下へおり、ゆっくりと格子戸を引開けて出て行った。