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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

さて真名古警視は溜池の左官屋で、壁塗りの仕上った時間を確かめると、タクシーを拾って日本橋の伊吹という洋服屋へ行き、何か細かに問い合わせたのち、その足で室町の松沢宝石店へ入って行く。ハンカチから例の手芸品を取り出すと、迷惑そうな若い手代を掴まえてこんなことを言っている。

「元日っぱなから妙な買物だが、それと同じ大きさの同じ形のダイヤモンドのイミテーションを作れまいか。百円ぐらいでおさまれば好都合なのだが」

手代は呆れたような面持で真名古の顔を眺めていたが、

「これはロゼット型という古い切り方ですな。……左様、無垢のガラスなら出来ないこともございませんが、……お値段のところはちょっと判りかねます」

「このぐらいの大きさならば何カラットぐらいあるかね」

「まず、三百カラットはございましょう」

「どのぐらいの値段がするもんだろう」

手代は、えッと息をひいて、

「御冗談」

「いや、どのぐらいするかときいているのだ」

手代は馬鹿馬鹿しそうな面持で、

「一カラット三百円というのが相場ですが、このくらいの大きな貴石になると、カラット数を二乗することになっていますから、三百の二乗で九万カラット。