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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

「言え」

「先月二五日以来、姫殿下並びに理事官長より再三御発信になりたる暗号電報に対し、殿下の御返電なきため、手前じきじき御返事を伺うようにとの御下命で、二十九日ハノイより旅客機を乗り継ぎ先刻到着いたしたのであります」

その暗号電報は確かに先程一通受取った。しかし、加十にどうしてそれが読み下せよう。せっぱ詰って、

「電報? そんなものは受取らん」

「おお、只の一通も。成程、李光明一派のやりそうなことでありまする。かりにこのような先明がありませんならば、しょせん、諜報部長の重大なる職責は果し得ぬでありましょう。手前らは早くもこのようなことと予察し、同文のものをここに持っておるのであります」

といって奥深いポケットから二通の電報を取出し、謹んで手渡ししようとする。加十はあわてて押戻し、

「うるさい。貴様、読め」

部長はかしこまり、

「……「大日本帝国、東京麹町区内山下町帝国ホテル内安南帝国皇帝宗竜王宛 安南帝国理事官長。……再三電報申上げし如く、皇甥李光明擁立派は、皇帝が「帝王」を帯出せられたるは、安南独立資金をうるため、日本においてそれを売却せらるる意志なりと附会して安南政庁に密訴、すでに仏国安南総督は東京駐箚仏国大使に右に対する事実調査を電請せり。