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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
酒月は、ふいと顔をあげ、
「ところが、そうとばかりいえない訳がある。妙なことを思い出した。……実はさっき、お前が出て行ってから、日比谷の会へ安亀が騒ぎに来たことを何気なくハッチに話すと、野郎いきなり立上って、混血児め、そんなつもりならキングだけじゃァ済まねえぞ、とかなんとか吐かしながら、まるで半狂人のようになって飛び出して行った。……キングてえのは王様のことだろう。……混血児てえのは相棒のバロンセリのことだから、して見ると、こッちにも何かの綾がある。ハッチソンもバロンセリも何かと一と役買っているのに違えねえ。……そういえば、ハッチの野郎、いやに落着いてると思ったよ。本来なら、大事件々々々で駆けずり廻っていなけァならねえ筈なのに、こんなところでシャアシャアしていたところを見ると、あいつァ、はなッから王様が殺したんじゃねえことを知りながらすッ恍けていやがったんだ、畜生」
幸田は、成程、とかなんとか合槌を打ちながら妙な顔をしていたが、突然横手を拍って、
「読めたッ!」と膝を乗出し、「おい、酒月、お前気がつかなかったか。池の、四阿の傍に、縮れッ毛の、眼のキョロリとした、色の浅黒い、立派なみなりをした安南人が突ッ立っていたろう。