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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
寝室から雲霧消散する直前だって終始沈着で、人を殺した人間のようには……」といいかけて突然に眼玉を据え、
「おや、ちと妙だぞ。……皇帝は稀代の大金剛石を持っている。……その王様が雲霧消散……。これァ、いかん。ひょッとすると王様は蒙塵したのではなくて誘拐されたのではないか知らん。……必ずしも有り得ないことではない。とすればこれァ、大事件だ」
と、又しても逆したような眼つきになってウロウロと立上りかけたが、また坐り直し、
「こう狼狽えたって仕様がない。ひとつ、落着いて昨夕からの次第をとっくりと考えて見よう」
と、物々しく腕を細み、
「……俺は昨夜七時に腹を立てて東京会館を飛び出した。ここまでは、……何も変ったことはない。それから、銀座で村雲笑子に逢って……、おや、これにしてからがすでに妙だぞ。……北海道の同じ小学校で教鞭をとっていた同僚が映画スタアに成上り、おまけに「巴里」という贅沢な酒場まで出したというから、同郷の懐しさで一度敬意を表しに行ったら、文字通りに塩を撒かれた覚えがある。……その笑子がなぜ昨夜に限ってあんなに愛想をよくしたのだろう。あの気位の高い女っちょが俺の手なんぞを執って、無理やり「巴里」