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まと

魔都

久生 十蘭

「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页

青空文庫

これは今晩までに間に合わせようと思ってこの四、五日の間は、寝る眼も寝なかったのよ。どうぞ褒めてちょうだい」

鶴子は式服を胸に当てたまま部屋の隅の姿見の前に行って身をくねらせながらためつすがめつ眺め入っていたが、やがて心から嬉しそうに花の方へ振返り、

「まア、すてき、よう出来てるわア、花ちゃんどうも有難う、お礼言うわ。どう、よく似合って」

「ええ、腹が立つくらい」

「まァ嬉し。それはそうとそんなところに突ッ立ってないで少しお掛けなさいな。もう仕事は済んだんでしょう」

「ええ、もうこれから寝るばかり。でも今日は遠慮して置くわ。もう間もなく王様が来るんでしょう。いやよわたし、見せつけられるのは」

「ばかねえ、竜太郎だって貴女のお顧客でしょう。待っていて少しお愛想するものよ」

「ええ、それはまたの折」

というと悪戯らしく眼を細め、

「鶴子さん、面白いことを話してあげましょうか。王様はね、この外にもう一つ訪問服を誂らえたのよ。どう、気が揉めやしなくって。そしてこれはぞんざいに縫っても構わないよなんていうのよ、妙な王様ねえ」

「それはね、花ちゃん、お国の奥さんのところへ持って行く着物なのよ。