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まと
魔都
久生 十蘭
「新青年」博文館、1937(昭和12)年10月~1938(昭和13)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 293,999 字 · 578 页
何気ないふうで、今朝の有明荘の騒ぎを知っているかと訊ねると、あのテキパキした娘が、まるで唖になったように、ろくすっぽ物のいえない始末なんだ。……手を握ってみると、こっちの手が濡れるほど冷汗をかいてブルブル慄えている。この小娘が、と思ったら、可哀そうより憎らしくなって、花ちゃん、鶴子さんが死んだんですってね、お目出度うといってやると、まるで雷にでも打たれたように、馬鹿みたいに口を開いてわちきの顔を瞶め、こう、眼が釣るし上ってきて、今にも痙攣けそうなようすをするから、もうこれで話がわかった、……花ちゃん、新年お目出度うといい直してやると、ようやく生きかえったような顔になって、あら、申し遅れまして御免なさい、新年お目出度うございます、どうぞ、今年も御贔屓に、といって笑ったけが、その笑い顔っちゃないんだね。……淋しいような、怨めしいような、まるで臨終のひとの微笑のような、何ともいえないはかない笑いかたをするの。わちきはつくづく見て、思わず感じ入っちゃった、……人を殺した奴ってのはこんな笑い方をするのかと思ってね。あの笑い顔が今でも眼から離れない。殺るときは夢中なってやったのだろうけど、殺ってしまうと、さすがに恐くなって、自分の部屋にもいたたまれなくて、あんなところをウロウロ歩いていたのだろう。